優愛
2010年4月1日。日本に宇宙人が来た?最近UFOの目撃情報が多発している。
中には実際宇宙人に接触したという証言もあり、
その人によれば、地球人に化け潜伏している為、分かりにくいが、
度々嘘を吐くという特徴があるという。
危険な存在である事は間違いなく、国内及び国外からも警戒の声が響く。

山田太郎は、そんな記事の載った新聞を読みながら、新入社員として会社に向かった。

「今日は新入社員が二人来てくれました。名前と年、好みの女性のタイプを教えて下さい」
この自己紹介の方法は社長が考えた新入社員と社員が打ち解けるための取り計らいだ。
「こんにちは、山田太郎です。18歳です。好みのタイプは年下の人です。宜しくお願いします」
「こんにちは、田中太郎です。15歳です。好みのタイプは年上の人です。宜しくお願いします」
社員がざわめく。この会社は中卒を受け入れていないのだ。
「なんちゃって、本当は18歳です」田中はおどけてそう言った。

昼休み、屋上でランチを楽しむOL二人はこんな会話をしていた。
「ねえ、新聞見た?新入社員、宇宙人だったりしてね。嘘ついたじゃん」
「馬鹿、今日は何の日だと思ってるの?エイプリルフールよ?」
エイプリルフール、それは、危害が及ばない程度の嘘なら許される、4月1日の事だ。
「でも、田中って奴、顔やばくない?」
「うん、やばいやばい」

「よう。お前、俺と同じ名前だな」
仕事場では、仕事を中断し、休みに入った山田が田中に話し掛けられている。
「そうだね、良くある名前だしね。君は一人っ子かい?」
「いや、男二人兄弟」
「当然兄貴だよね?」
「俺?いや、兄貴じゃないよ」
「え?そうなの?変わってるね。太郎は長男の名前だけど」
「まあ、長男だよ」
「何だよ、嘘かよ」
「悪い悪い、それよりさ、新聞見た?」
「ああ、宇宙人のやつ?見たよ」
「面白い本有るけど見る?」
「どんな本?」
田中は『宇宙人とあう方法』と書かれた粗末な作りの本を出した。
「へー、面白そうだね」
「貸してあげるよ」
山田は本に軽く目を通し、それを持ち屋上へ向かった。

山田は、屋上で空に向かい、何回も『どんだけー』をやっている。
これはゲイの中で流行ったギャグのようなもので、
本には、「『どんだけー』が宇宙に届いた時、
宇宙人はあなたの前で、『いかほどー』と答えてくれるでしょう」と書かれている。
「あいつが宇宙人なんじゃない?」
ランチを楽しむOL達は、気違いから身を遠ざけるように、仕事場に戻った。
山田が何の音沙汰もない空を見上げている時、そこに田中がやってきた。
「やってるねー」
「駄目だ、宇宙人来ないや」
「宇宙人ってのは、純粋な人間の前にしか現れないんだ、もしかしたら熱意が足りないのかも」
「えー、そうかな?」
「ほら、『どんだけー』やってみて」
「どんだけー」
「上手い上手い、板に付いてるねー」
「どんだけー」
「良いよ良いよー」
「どんだけー」
「その熱意、宇宙人に届くよ。そうだ、仕事終わったら屋上へ来てくれる?話があるから」
そう言い、田中は仕事場へ戻り、続けて山田も、『どんだけー』を止め、仕事場へ戻った。

仕事が終わり、約束通り山田は屋上へと向かった。
そこには宇宙人の被り物をした何者かが立っている。
「やあ、山田君、来てくれたか。私は宇宙人だったのだ。君を試していたのだ。
君のような純粋な人間を探していた」
驚いた風の山田に、被り物を外した田中は、ドッキリ大成功と書かれた紙を見せた。
「警察だ。宇宙人め、手を上げろ」
山田はおもちゃのピストルを田中に向け距離を縮めた。
「やだー」
焦る風の田中に山田もドッキリ大成功と書かれた紙を見せた。
「さては、お前が宇宙人だな?手を上げろ」
田中は人差し指の銃口を山田に向け距離を縮めた。
「いや、それ、全然恐くないよ。俺のドッキリが勝ちだろ?ん?」
田中は、鼻くそが付いている人差し指の銃口を見せ、ドッキリ大成功と書かれた紙を山田に見せた。
「それ、美味しそうだね?食べさせて」
山田は鼻くその付いた人差し指を自分の口に近づけた。
「いや、この鼻くそは俺が食うんだ」
鼻くそを取り合い、いつしか、鼻くそが風に飛ばされ無くなった頃、
二人は禁断の愛を繰り広げていた。
「いいのかな?こんな事してて」
兄貴の山田が答えた。
「大丈夫、ばれたところで今日は何でも冗談で罷り通るのさ。ほらドッキリ大成功」
「何て素晴らしい日なの。ドッキリ大成功」
「そうだ、この日をエイプリルホールと名付けよう」
「いかほどー」
山田の『どんだけー』は『宇宙』に届いた。