わらしべちゃん
ある番組の人気コーナーわらしべちゃん、
それはあらゆるお宅を訪問し、わらしべ長者を行うコーナーである。
最後に向かったのは、大富豪、前田のぶえの家だった。

男 はい、わらしべちゃん、これから最後のお宅へ行こうと思います。
実はそのお宅は、あの、今は亡き有名芸術家、前田たかしの奥様、前田のぶえさんのお宅です。
期待できますねー。はい、着きました。
ピンポーン。
のぶえ はい?(犬を抱いて出てくる。そして犬はこれからも常に抱いている)
男 こんにちは、わらしべちゃんです。
のぶえ あなたいったい何者なの?
男 わらしべちゃんをご存じないようですね?
のぶえ あなたがわらしべちゃんなの?
男 いや、私は野口です。
のぶえ あらそう。
男 わらしべちゃんとは、あの人気番組、「お金大好き」の人気コーナーで、
あらゆるお宅へ訪問して、わらしべ長者を行うというコーナーなんですよ。
のぶえ そうですか、分かりました。
男 で、実は交換してもらいたいものが、
この世界的な有名書道家、山田清龍の書です。(有名無実と書いてある)
のぶえ あら、素敵ね。
男 おそらく、お金に換算すると、百万は下らないでしょう。
のぶえ 百万以上の物が欲しいのね?
男 まあ、そうですね。
のぶえ 入ってよろしくてよ。
男 お邪魔します。うわー、広い玄関ですねー。
のぶえ この木彫りの大樹なんてどう?
男 これ盆栽じゃないんですか?彫ってんですか?
のぶえ いや、まあ、木製の大樹よ。
男 (首をひねる)おいくらなんですか?
のぶえ あーこれは安いわよ。831円。この大樹には安いというメッセージがあるのよ。
男 え?どういうことですか?それはちょっといりませんねー。あ、リビングのほう行きましょう。
のぶえ これなんかどう?木彫りの切り株。
男 これ、ただの切り株じゃないですか?彫ってんですか?
のぶえ いや、まあ、木製の切り株。
男 ただの切り株じゃないですか。
のぶえ 木を切るという、夫、前田たかしの努力を無いことにするのね?
男 いや、すいません。これは百万以上の物なんですか?
のぶえ ギリね。百万五円。
この切り株には100パーセントご縁があるようにというメッセージがあるの。
男 いや、切り株とご縁関係ないですよね?
のぶえ ないですのよ。
男 え?ないんですか?
のぶえ あ、この木彫りの爪楊枝なんてのはどう?
男 いや、ただの爪楊枝じゃないですか?
のぶえ これも、私の亡き夫、前田たかしが作った作品よ?コンビニで買った。
男 買った?これもやっぱ木彫りじゃないんですね。何で嘘をつくんですか?
のぶえ 前田たかしは木彫りという言葉が好きだった。
男 どんな人ですかそれ。
のぶえ 思い出すなー。木彫り木彫りと言いながら戯れた日々。
男 おかしい人じゃないですか。分かりました、これは、ただの爪楊枝なんですね?
のぶえ だからって、コンビニに足を運んだ、夫、前田たかしの努力を無いことにするのね?
木彫り木彫りと言いながらコンビニに行った苦労を無いことにするのね?
男 分かりました。で、いくらなんですか?
のぶえ これは、二百万五円だわ。
この爪楊枝には二百パーセントご縁があるようにというメッセージが込められているの。
男 さっきのもそれも、メッセージは値段でしか表現されてませんよね?
爪楊枝自体は関係ないですよね?
のぶえ 私の夫は値段芸術のさきがけでしたからね。
男 値段芸術?
のぶえ たとえば、この木彫りの割り箸なんかは、
4649万円で、よろしくというメッセージが込められているの。
男 よろしくというメッセージって、ただの挨拶じゃないですか。
のぶえ 前田たかしは挨拶好きでしたからね。遺言にも挨拶と書かれていました。
男 さよならとかじゃなくて、挨拶って書いてあったんですか?
のぶえ そうなの。
男 木彫りとは書かなかったんですね。
のぶえ 照れ屋さんでしたからね。
男 よく分かりませんが。他に、木じゃない物ありませんか?
のぶえ ありません。
男 じゃあ、その中で一番高いやつと交換しましょう。
のぶえ そうね、じゃあこれなんかどう、木彫りの削りかす。
男 お値段は?
のぶえ こんだけよ。(103931418円と書いた紙を見せながら)
男 高いですねー。どういうメッセージが込められているのですか?
のぶえ 父さん臭いし嫌、というメッセージが込められているの。
男 もう帰ります。